栄養療法で調子悪くなる人への注意点
専門家による栄養療法によって調子悪くなった場合の原因を考えてみましょう。
まず、個体差を考慮していない画一的な指導が考えられます(例えば、プロテイン・鉄・ナイアシン等を誰にでも勧める指導など)。
それから検査をしていない事も考えられます。検査もせずカウンセリングと栄養療法の知識だけで栄養アドバイスしてもハズレが多くて当たり前です。血液検査などに基づいた栄養指導が一般的ですが、私の場合はARテストをして栄養指導しています。
神経系は大きな変化や急激な変化を嫌う
今まで良いと思っていた食事を大きく変えたりすると、例えその食事がその人にとって良いものであっても、また今までの食事を変える事に対して肯定的に考えていても、調子が悪くなる事があります。
例えば「野菜中心の食事で動物性タンパク質はたまに少し摂るくらい」という食生活を長く続けてきた方が、動物性タンパク質の摂取を急に増やし始めると調子が悪くなる事があります。
何故でしょう?
それは私達の自律神経系は大きな変化をとても嫌うからです。
私達の自律神経系は例え良い刺激であっても、急に大きく変わるとビックリして、不都合ながらも慣れ親しんだ元の状態に戻ろうとする性質があるのです。
※自律神経にこのような反応がある事はトラウマ療法を学んだ時に知りました。なので現在の私の心理療法では、「小さく少しずつ変化させる」という事をとても大事にしています。
そこで、今まで良いと思っていた食事法を変えたりする時は、一気にガラッと変えるのではなく、小さく、ゆっくりと変えるようにするのです。
例えば、動物性タンパク質が足りなくて今の2倍以上増やす必要がある場合、3~4日おきに、今までより少し動物性タンパク質を増やした食事をしてみるのです。そこから少しずつ変化させて、次第に目標の量を毎日摂るようにしてみるのです。
オルトレキシアという問題
しかし、人によっては食事を変える時に心理的抵抗感に対して心理療法が必要な人もいます。(結構多いです)
特に「体に悪いと考える食品を避けることで生じる強迫観念」がある人の場合、心理療法は不可欠です。この強迫観念の事を専門用語で「オルトレキシア」と言い、新しいタイプの摂食障害と言われています。
このオルトレキシアらしき人は私のクライアントにも少なからずいます。
例えば、このような人達です。
- 食事は1日1回じゃなきゃ駄目という人
- 動物性タンパク質は食べないという人
- 糖質を可能な限り食べないという人
- 添加物の入ったものは徹底して食べないという人
もちろん、そのような食事をしていても本当に健康であれば何も問題ありません。実際にそのような食事をすすめる専門家もたくさんいますし、その人にとってはそれが本当に体質に合っているのでしょう。私もそのような人達に食事の事をとやかくいうつもりは全くありません。
問題なのは、何らかの健康上の問題があり、そして専門家が客観的に見て、今まで自分が正しいと考えてきた食事の仕方を変更する必要がある場合です。もしオルトレキシアらしき人であれば、今まで自分が正しいと考えてきた食事の仕方を変更すると調子が悪くなる事が多いです。あるいは食事の仕方を専門家のアドバイスどおりに変更しようとしません。
例えば、私がお会いした方で最も病的だった方は、「24時間断食しないと体臭がする。しかも、白米以外のものを食べると体臭がする。」と強く思い込んでいて、1日1回、白米だけしか食べないという食事を続けていため病的に痩せていました。
また、16時間断食とか糖質制限は副腎疲労がある人はやってはいけない食事法ですが、それが良いと信じているために、1日3食、糖質も適度に食べるよう指導すると調子が悪くなる人も少なからずいます。
その他、化学物質過敏症の方には添加物に対する強迫観念がある方が多いです。添加物を避ける事は何の問題も無いのですが、強迫観念があるとほんの少し添加物を食べただけでも体調を崩します。そのため、添加物だけでなく他の様々な化学物質にも過剰に怯えています。そのような場合、添加物に対する強迫観念を取り除くセラピーが化学物質過敏症のセラピーにもなります。
このような方々は、心理面のケアが不得意な栄養療法のクリニックで匙を投げられたり、怒られたりする方もいらっしゃるようです。
では、このような方々はどのようにすれば良いのでしょう?
まず食事を変える時に生じる恐怖や不安感などに対して心理療法を行う必要があるでしょう。今の食事を無理に今すぐ変える必要はありません。そして食事を変える時は、今までの食事を一気にガラッと変えるのではなく、小さく、ゆっくりと変えるようにするのです。
ここまで書いたように、栄養療法はクライアントの心理面も考慮して行う事がとても重要なのです。
サプリメントに対する不安や否定的な思い込み
- なるべくサプリメントは使わず自然の物から栄養を摂取するべき
- サプリメントをたくさん飲むと肝臓や腎臓を悪くする
↑このように考えているも方もいるでしょう。
そのような方が私の所に来て「積極的にサプリメントを使う」という私の方法を開始すると、サプリメントを使って良くなりたいという気持ちと、サプリメントに対する不安や否定的な思い込みが葛藤する場合がよくあります。
※サプリメントを使って良くなりたいという気持ちが無い人は、私のやり方と合いませんので来院をお断りしています。
そのような葛藤がある場合、積極的にサプリメントを使い始めると調子が悪くなる事がよくあります。あるいは、サプリメントで体調が良くなってきても、サプリメントに対する不安が消えない人もいます。
このような場合、私は葛藤に対する心理療法を行う事もあります。また、しばらくサプリメントを中止する必要があるでしょう。そして、サプリメントを開始する時は、毎日摂取するのではなく週1~2回、量も少なめから開始して、そこから少しずつ必要な量・頻度に増加させるのです。
このようにして、自律神経系を安心させながら、小さくゆっくりと変化させるのが重要です。
プロテインを飲むと腎臓が悪くなるのか?
病院の採血検査において、BUN(尿素窒素)やクレアチンで腎臓の状態を調べています。
通常、プロテインを飲むとBUN(尿素窒素)やクレアチニンは高くなります。そのため、プロテインを飲むと腎臓が悪くなるという誤解している専門家もいます。
しかし、BUN(尿素窒素)やクレアチニンは、タンパク質の代謝物質なので、プロテインを飲んだりして高タンパク食にすると増えるのは当然の事であり、例え腎臓に何も問題がなくても増えます。
もちろん、本当に腎臓が悪い場合はプロテインはやめて低タンパク質にしなければなりませんが、BUN(尿素窒素)やクレアチンが高いのは、ただ単に高タンパク食にしているせいなのか考慮する必要があります。
サプリメントをたくさん飲んでると肝臓が悪くなるのか?
高用量を長期的にとると肝臓に負担がかかるサプリメントがあるのは事実です。
ですから、専門家のアドバイス無しで高用量のサプリメントを長期間飲むのはおすすめできません。
ですが、専門家はそのような知識はちゃんと知っっている上でアドバイスしているので通常は大丈夫です。
「プロテインを飲むと胃が膨れて苦しい」という問題
「プロテインを飲むと胃が膨れて苦しい」とか「プロテインを飲むと胃が気持ち悪くなる」という人が結構たくさんいると思いますが、これは消化不良の症状の1つです。
消化不良に加えてリーキーガットもある場合、未消化の食品がが体内に取り込まれてしまい、アレルギーなどの症状に結びつきやすくなります。
消化不良の原因としては、
- 食べすぎ
- 胃酸を抑える薬を飲んでいる
- 胃粘膜が炎症していて胃酸やペプシン(タンパク質分解酵素)の分泌が不足している
- ピロリ菌が産生するアンモニアによって胃酸が中和されている
- 胆嚢を摘出して胆汁の分泌が不足している
- 慢性膵炎で消化酵素の分泌が不足している
などが考えられますが、プロテインが飲めないという場合、最大の原因は機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)かもしれません。
機能性ディスペプシア(機能性胃腸症)とは、内視鏡検査などでもガンや潰瘍といった器質的疾患が見られないにもかかわらず、胃の痛みや胃もたれ、食後の膨満感、不快感などを覚える疾患です。(Wikipediaの説明を引用しました)
※ただし機能性ディスペプシアと似たような症状を示す他の病気(胃十二指腸潰瘍・胃がんなど)の可能性もあるので気になる場合はちゃんと病院で胃の検査をしてもらうべきです。
健康な人は食事をすると胃の上部を拡張して食べ物を貯められるようにします。空腹時は40~60mlだった容積は食事をすると1~2リットルまで拡張します。このような胃の拡張機能を専門用語で「胃適応性弛緩」と言います。
また胃から十二指腸へ食べ物を排出するスピードも適度に調節さています。このような機能を専門用語で「胃排出」と言います。
機能性ディスペプシアの人は、胃適応性弛緩に問題があり、食事をしても胃の上部が拡張しないため、少食にしないと膨満感で苦しくなったり、ムカムカして気持ち悪くなります。また胃から十二指腸へ食べ物を排出するスピード(胃排出能))も通常より遅いため胃の中に食べ物が滞留する時間が長くなる事も関係しています。
それから機能性ディスペプシアの人は、胃が知覚過敏の状態に陥っていることで正常な胃酸分泌でも灼熱感、痛みやなど引き起こします。(逆流性食道炎の症状と同じですね)
この機能性ディスペプシアの大きな原因がストレスです。
そのメカニズムですが、
まず、ストレスなどがあると脳の視床下部という所からCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が出て下垂体を刺激します。さらに下垂体は副腎皮質を刺激します。そうやってコルチゾールなどの副腎皮質ホルモンが出ています。
しかし、CRHは副腎皮質ホルモンの分泌に関与しているだけでなく、迷走神経を介して胃や十二指腸といった上部消化管運動を抑制しているのです(専門用語でCRH2型受容体というのが関係しています)。そのため機能性ディスペプシアとなります。
ですから、機能性ディスペプシアかもしれない人、例えばプロテインが飲めないという人に対しては心理療法が必要な人が多いと思います。
ただし心理療法をしなくても、仕事を減らす、介護や育児を他の人に手伝ってもらう、転職・休職する、別居するなどして、精神的、肉体的負荷を減らす事だけでも良くなる事もあるでしょう。