このような事がトラウマ解放を妨げます
私のトラウマセラピーを受けている方は知っておいてください。以下のような事がトラウマ解放を妨げます。
- 自分1人でトラウマセラピーをする
- 早く良くなろうとする
- 考えて解決しようとする
- 大きすぎる夢や期待。あるいは大きすぎる目標や根拠なき自信。
- 激しい感情を吐き出してスッキリしようとする(カタルシス)
- 厳しい断食やスピリチュアル系の瞑想(変性意識状態)
当てはまっている人いませんか?
以下に何故良くないのか?1つずつ説明します。
自分1人でトラウマセラピーをする事について
自分1人でトラウマセラピーをやると悪化する事が多いので絶対にやらないで下さい。
私も自分一人では絶対にやりません。ちゃんとお金を払って他のセラピストにみてもらってますし、そのセラピストも他のセラピストにみてもらってます。
自分1人でトラウマやインナーチャイルドを刺激して激しい感情体験をしてすっきりする事もあるかもしれませんが、その時に良くなったと感じるのは一時的なものに過ぎず、むしろ感情のジェットコースター現象が癖になってしまいトラウマ解放を妨げています。
早く良くなろうとする事について
トラウマセラピーにおいては、早く良くなろうとする事が逆に遠回りになります。
トラウマセラピーにもいろいろあって、劇的な体験ができるセラピーとか、1回で大きく変化を体感できるセラピーもきっとあるでしょう。そのようなセラピーだと「やってもらった!」という満足感も高いはずです。
しかし、そのようなセラピーは直後に大きな満足感を得られても長期的に見てあまり効果がありません。
なぜなら、私達の自律神経系は例え良い刺激であっても、大きく刺激して大きく変化したり、高頻度で刺激して非常にスピーディに変化し始めるとビックリして、不都合ながらも慣れ親しんだ元の状態に戻ろうとする性質があるからです。
また、トラウマの記憶は、トラウマセラピーのセッションの後に時間をかけて脳で整理・統合される必要があります。早く良くなりたいために、一気にいっぱいやって欲しいとリクエストされる方がいますが、そうしてしまうと食べ過ぎて消化不良を起こしたような状態と同じで、トラウマの記憶を統合する事ができず逆効果です。
特に精神的健康度が著しく低い人の場合、当院に来て少し無駄話をするだけでも、最初は丁度よい刺激になっている事があります。そして、その刺激を整理・統合する時間もある程度必要になってきます。
なので、トラウマ解放においては、Less is More(少ない方が豊か)とか、Slow is Fast(ゆっくりやるのが早い)と形容されるように、小さく刺激して小さく変化させ、そしてゆっくり変化させるほうが後戻りもなく、結局、そのほうが近道となります。
私がやっている小さく・ゆっくり変化させるセラピーではすぐに効果が見えませんが、これで良いのです。
特に、幼少期に安心・安全を十分に感じられなかった「発達トラウマ」がある人は、数年がかりです。数回で効果を感じられなくても当然の事だという事を理解してください。
考えて解決しようとする事について
私達は悩みや苦しみがある時に「なぜ?」「どうして?」「何が原因?」等とあれこれ思考し自分自身に説明して納得したがります。原因探しに夢中になって一晩中ネットで情報収集する人もいるでしょう。 しかし、落ち着いていない状態であれこれ思考すると、その思考が逆に火に油を注ぐ結果となり、ますます落ち着かなくなります。
また、考えて解決しようとする人の中には「気分転換なんかしても問題は解決しない」とか「問題が解決しなければ気分転換できない」と考える人もいます。そして、そのようにして気分転換を蔑ろにする事でメンタルヘルスを悪化させています。
これはまさにトラウマの渦に飲み込まれて溺れている状態なのです。
しかも、落ち着いていない時はマトモな思考が難しくなるので、事実とは違う「思い込み」をしやすいのです。また事実とは違う捏造された記憶(虚偽記憶)も形成されやすい事がわかっています。しかも、ネガティブな感情だけでなく高揚感や恍惚感のようなポジティブで強い感情をもった時にもそうなります。
※落ち着いていない時にセラピストの暗示的な言葉によって思い込みや虚偽記憶が作られる事もあります。(そうならないよう私も気をつけています)
落ち着いていない時はあれこれ思考するやめましょう。まず落ち着く事に専念するべきです。ネットで情報収集するのもやめましょう。そして思考する事によってトラウマの渦に飲み込まれている事に気づきましょう。
もしどうしても考えて解決しなければならない事があれば、その事を落ち着いて考えられるようになるまで棚上げにしましょう。
ただし、どうしても思考を止められない人もたくさんいます。そんな人は、体を動かしたり、自然を感じたりして気分転換が上手にできるように、少しずつ変化させてゆきましょう。気分転換が上手にできるようになってくると、思考を止められない自分に気づいた時に、意識的に問題を棚上げにして思考を止める事ができるようになってきます。
大きすぎる夢や期待 あるいは大きすぎる目標や根拠なき自信について
精神的健康度が低い人がまず取り組むべき課題は、ポジティブでもネガティブでもない、ニュートラルの状態(安心・安全、落ち着き)にしっかり留まれるようにする事です。
なぜなら、大きすぎる夢や期待。あるいは大きすぎる目標や根拠なき自信など、大きすぎるポジティブ感情は、振り子のように反転して不安や挫折、恐怖や諦めなど大きなネガティブ感情に反転しやすい性質を持っているからです。
しかし、ニュートラルの状態(安心・安全、落ち着き)にしっかり留まれるようになって、精神的健康度がある程度高くなってくれば、感情の振り子がネガティブ側に大きく揺れる事があっても、すぐに揺れを止めてニュートラルの状態に戻す事ができるようになります。つまり、困難にぶつかってもそれを乗り越える事ができるのです。
激しい感情を吐き出してスッキリする事について(カタルシス)
抑圧している感情やモヤモヤしている感情をしっかり感じて吐き出す・・・
そうするととてもスッキリする事があります。(逆に辛くなる事もある)
カタルシスとは「内に溜まっているものを吐き出す」ような意味合いの言葉です。さらにカタルシスによって気持ちがスッキリする事を「カタルシス効果」と言います。
カウンセラーに話をしっかり聞いてもらってスッキリするのはカタルシス効果です。また、人に話すのではなく、自分一人で自分の内面に向き合い、トラウマを刺激してカタルシスを体験している人もいます。
そのような人の中には、辛くなったらカウンセラーの所に行って毎回感情を吐き出してスッキリするという、言わば「カタルシス中毒」のようになっている人もいます。(同時にセラピスト依存かもしれません)
しかし、カタルシスは長期的に見ると効果はありません。
またカタルシスには激しい感情体験を伴うので、それを繰り返す事で自律神経がジェットコースターのように急激に大きくアップダウンする悪い癖がつき、自律神経が安定化しにくくなります。
さらに、PTSDなどのトラウマ症状が酷い人の場合、カタルシスに伴う激しい感情体験によって「再トラウマ化」という現象が起こり症状が酷く悪化する場合が多いです。
このように、カタルシス療法(トラウマに関連した激しい感情的追体験をすることでトラウマの解放をこころみるタイプの心理療法)は直後に大きな満足感を得られても、長期的に見ると効果が無いばかりか悪くなる人もいます。
カタルシスは感動する大ヒット映画のようなもので、映画を見終わった時には大きな満足感を得られます。しかし、長期的にみて効果のある心理療法は、ヒットしない映画のように見終わった時に大きな満足感は無いものです。
当然ですが多くの方は早く良くなりたいと思っています。しかしその気持が強すぎて焦っている人は、感動する大ヒット映画のような、毎回大きな満足感を得られるような心理療法を受けたがります。そして、私がやっているような、ゆっくりと小さく変化させる心理療法に満足できなくて来なくなる人もいます。
厳しい断食やスピリチュアル系の瞑想について
「変性意識状態」とは通常の意識状態ではない状態の事です。
精神的に非常に苦しい人の中には、厳しい断食やスピリチュアル系の瞑想によって自分を変性意識状態にして、そこで得られる強い至福感、神秘的体験を通じて苦痛から逃れようとする人もいます。頭も冴えて身体の調子も良いと感じるかもしれません。
しかし、そのような状態は精神や肉体が限界まで追い込まれた時に苦しみを解離・麻痺させて楽にさせる防衛反応の一種(防衛的適応)であり、実は全然マトモな状態ではない事を知っておく必要があります。
私達が真に落ち着いている時の自律神経は最適な覚醒状態になっていますが、厳しい断食やスピリチュアル系の瞑想によって変性意識状態になっている時の自律神経は過度に低覚醒状態になっています。
ここで「耐性の窓」という理論を使って、ストレス耐性が高い人と低い人の違いについて説明しましょう。
耐性の窓とは、私達が許容できる高覚醒の上限と低覚醒の下限の範囲の事です。ストレスがかかっても、それが耐性の窓の範囲を超えていないのであれば、またすぐに最適な覚醒状態に戻ってくる事が可能です。
ストレス耐性が高い人はこの耐性の窓が広いため、ストレスによって高覚醒あるいは低覚醒になってもすぐに最適な覚醒状態に戻る事ができます。
それに対して、ストレス耐性が低い人は耐性の窓が狭いため、小さなストレスでも最適な覚醒状態に戻る事が困難です。そのため、普段からいつも耐性の窓の外で日常を過ごしている人がいます。(そのような状態を「偽りの耐性の窓」と言います)
そのような人達は、耐性の窓の外でも何とか日常を過ごせるように何らかの防衛的適応を使っています。厳しい断食やスピリチュアル系の瞑想もその一種で、変性意識状態に逃げる事で耐性の窓の外でも「その場しのぎ」的な安らぎを感じ、何とか日常を過ごそうとしているのです。
私のトラウマセラピーにおいては、まず防衛的適応を使わずに安心・安全をしっかり感じ、最適な覚醒状態に戻る事ができるようにする事を最初の目標とします。それができてから、トラウマを小さく刺激し、少しだけ耐性の窓を出て、またすぐに最適な覚醒状態に戻るというセラピーを繰り返します。そのようにして、非常にゆっくりと耐性の窓が拡張し、ストレス耐性も高まります。
しかし、変性意識状態にして偽りの耐性の窓に留まる事を良かれと思ってやっていると、いつまでたっても最適な覚醒状態に留まる事ができません。当然、耐性の窓も広くなりませんし、ストレス耐性も高くなりません。このような理由で私は厳しい断食や変性意識状態になる事を目的とした瞑想について否定的です。そして私の心理療法との併用はやめるようアドバイスしています。