メチル化

メチル化をわかりやすく説明するのは非常に難しいです。それでもなんとか頑張って説明してみました。あくまで一般の方が知るならばこれくらいで十分というレベルの説明です。それでもかなり難解かもしれませんがご容赦ください。

メチル化って何?

メチル化とはさまざまな基質にメチル基が置換または結合することです。

でもこの説明じゃ一般の方だとピンとこないですよね。なかなか他の良い説明の仕方が思いつきませんが、あえて別の言い方をすれば

健全な細胞の営みに、とにかく重要な化学反応  です。

メチル化の異常は様々な病気や体質・気質に大きく関係しています。

メチル化がしている事

具体的には次のような事に関係しています。

  • 神経伝達物質の量を決める
  • 神経細胞の発達
  • 細胞膜やミエリン鞘の材料であるホスファチジルコリンを合成する
  • 細胞内のヒスタミンの分解
  • エストロゲンの分解
  • エピジェネティクス / 遺伝子の発現を左右する
  • エネルギー(クレアチンリン酸)の合成
※メチル化はこの他にもたくさんの化学反応に関わっています。

1.神経伝達物質の量を決める

メチル化はセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の量に大きく影響します。メチル化が不十分な状態である「低メチル化」と過剰な状態である「高メチル化」では、神経伝達物質の量が違うのです。

※画像はウィキペディアより)

低メチル化タイプの人は、シナプス間隙(神経と神経の間の部分)に放出されたセロトニンやドーパミンなどの神経伝達物質の再吸収が促進されます。そのためシナプス間隙の神経伝達物質が不足します。 低メチル化はうつ病や自閉症の人に多いようです。

※医師が処方するSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)は、その名の通りセロトニンの再吸収を阻害する事によってシナプス間隙のセロトニンを増加させます。

逆に高メチル化タイプの人は、神経伝達物質の再吸収が低下するため、シナプス間隙の神経伝達物質が過剰になります。このタイプの人は統合失調症や双極性障害の人に多いようです。

私の所には、精神疾患ではないけど不安やイライラが強い人や、人前で過剰に緊張する人や、やる気が出ない人など、多少なりともメンタルヘルスが低下している人が多く来院されます。そのような方々をARテストで検査すると低メチル化タイプが断然多いです

またセロトニンやドーパミンを合成するにはBH4という補酵素が必要です。そのBH4は前駆体であるBH2から合成されます。BH2からBH4への変換はメチル化が十分にできている時に促進されるので、低メチル化だとセロトニンやドーパミンの合成が低下します。

2.神経細胞の発達、ホスファチジルコリンの合成

※画像はウィキペディアより

PRMT1というアルギニンメチル化酵素は、神経細胞の軸索という部分を伸ばしてゆき、脳内の情報ネットワークを作ってゆきます。さらにPRMT1はミエリン鞘の形成にも深く関与しています。

※末梢神経障害の薬として医師が処方するメチコバールという薬は、ビタミンB12にメチル基がついているメチルコバラミン(ビタミン剤)ですが、これはメチル化にかなり関係の深い栄養素です。メチコバールはメチル化を促す事によって末梢神経の修復をしようとしているものと考えられます。

それから、PEMTというメチル化酵素は、ミエリンの材料であるホスファチジルコリンを合成します。そのホスファチジルコリンは、卵や肉などの食品からコリンを十分に摂取できていればPEMTの働きがなくても足りているのですが、多くの人が食事から十分にコリンを摂取できていないので、やはりPEMTの働きは重要です。

またホスファチジルコリンは細胞膜の材料でもあるので、健全な細胞作りには欠かせない重要な栄養素です。妊婦や成長期の子供など新しい細胞をどんどん作っている時期には、細胞の増加に比例して細胞膜の材料もたくさん必要になります。ですからホスファチジルコリンの不足の影響を最も受けやすいのが妊婦と成長期の子供です。

また、ホスファチジルコリンが不足し筋肉の細胞膜(筋細胞膜)が弱くなると理由もなく筋肉痛になったり、さらに深刻になると、やがて筋肉は痛むだけでなく弱くなります。ですから、老化が原因だと諦めているような筋肉の痛みもホスファチジルコリン不足が原因である可能性も大いにあるでしょう。

さらにホスファチジルコリンは胆汁の分泌を促したり、脂肪肝を予防するなど、肝臓の健康にも非常に重要です。胆汁の分泌が悪い人は脂肪の多い食事でもたれたり、胆石症になったり、コレステロール値が高くなったりする事がよくあります。

さらにホスファチジルコリンは、胆嚢から胆汁がスムーズに流れ出るのを助け消化を助けます。その事が、細菌を小腸から排除しSIBO(小腸内細菌異常増殖症)を防ぎます。また脂肪分が多い食事が苦手な人はホスファチジルコリンが不足しているかもしれません。逆流性食道炎にも胆汁の分泌不足が関係します。

ホスファチジルコリンは中性脂肪を肝臓から排出する働きもあります。なのでホスファチジルコリンが不足すると脂肪肝になりやすくなります。特に非アルコール性脂肪肝の人はホスファチジルコリンの不足があるかもしれません。

3.ヒスタミンを分解する

何かを食べた時に調子が悪くなるという人がほぼ毎日来院されます。「きっと小麦と乳製品が原因なんです!」と原因を確信している人もいれば、何が原因なのかわからない人もいます。

そんな人達をARテストで調べてみて、かなり多く反応するのが"ヒスタミン不耐症"です。ヒスタミン不耐症はアレルギーと同じ症状が出ますが、本当のアレルギー反応ではないので、仮性アレルゲンとも言います。

本当の(狭義の)アレルギーの場合は免疫細胞からヒスタミンがでます。それに対して、ヒスタミン不耐症の場合は、ヒスタミンを分解する酵素が十分に存在しないため、ヒスタミンを多く含む食品を食べると体内にヒスタミンが溢れる事で症状が出ます。

※ヒスタミン不耐症に似た用語に"ヒスタミン中毒"があります。ヒスタミン中毒はヒスタミンを分解する能力が普通にある人でも分解できないくらい高濃度のヒスタミンが蓄積された食品、特に魚類及びその加工品を食べることにより顔面紅潮、頭痛、吐き気、じんましん等が出る食中毒の一種です。

過剰なヒスタミンは、かゆみ、湿疹、花粉症などのアレルギー症状だけでなく、乗り物酔い、吐き気、片頭痛、下痢、悪阻(つわり)、耳鳴り、喘息/運動誘発性喘息、などの原因となります。

ヒスタミンを分解する酵素にはDAO(ジアミンオキシダーゼ)とHNMT(ヒスタミンNメチル基転移酵素)の2つがあります。それぞれ作用する場所が違っていて、DAOは細胞外、HNMTは細胞内で作用します。つまり、細胞内のヒスタミンを分解するためにはメチル化のアプローチが必要なのです。

それに対して、DAOは健全な腸粘膜の細胞から分泌されるので腸内環境を良くするアプローチが必要になります。しかし、腸内環境を良くする事もメチル化のアプローチとして重要です。

4.ストレスホルモンやエストロゲンを分解する

COMT(カテコール-O-メチル基転移酵素)というメチル化酵素はエストロゲン(正確にはカテコールエストロゲン)やストレスホルモンのアドレナリンなどを分解する酵素です。

メチル化の異常の原因には、栄養や遺伝が大きく関係していますが、ストレスも大きく関係しています。なぜなら、ストレスで発生したストレスホルモンはメチル化によって代謝・分解されるため、ストレスフルな状況ではメチル化の仕事量が増大し、メチル化に必要なメチル基を作り出す栄養素(メチオニン、葉酸、ビタミンB12など)が枯渇してしまうからです。またストレスによって発生した活性酸素がメチル化を抑制してしまいます。

またメチル化が担っている仕事にはエストロゲンの分解やヒスタミンの分解もありますから、エストロゲン過剰な女性やヒスタミンが過剰な人はメチル化の仕事量が増大するためにメチル基が枯渇し、神経伝達物質が少なくなる事で精神が不安定になります。ですから、PMS(月経前症候群)やPMDD(月経前不快気分障害)のような症状にも大きく関係しています。

対策としては、生理前やストレスフルな状態でもメチル化に必要な栄養素が枯渇しないようにサプリメンテーションしながら、ストレスを減らしたり、トラウマセラピーによって自律神経を落ち着かせやすくする事が必要だと私は思います。

私の経験では、栄養素によるメチル化対策が不十分な状態でトラウマセラピーを行うのと、十分な状態でトラウマセラピーを行うのとでは効果がかなり違うように思います。

5.エピジェネティクス / 遺伝子の発現を左右する

エピジェネティクスとは、DNAの塩基配列を伴わずに遺伝子発現するしくみを研究する学問の事です。これはつまり、親から受け継いたDNAの塩基配列は後天的には変えられないけど、食事やストレスなど後天的な要素によって遺伝子の発現の仕方は変わるという事です。

そして、そのエピジェネティクスを左右する最大の因子がDNAのメチル化です。DNAのメチル化は遺伝子のスイッチをオフにし遺伝子発現を抑制します。例えば、親から糖尿病になりやすい遺伝子を受け継いだとしても、食事やストレスなど後天的な要素が良ければ、糖尿病になりやすい遺伝子のスイッチがオフになり、発病しにくくなります。ですから、遺伝の要素が大きい病気の発症を防ぐにはメチル化へのアプローチが重要です。

特に胎児期や幼少期の栄養状態等により生じたエピジェネティックスの変化は成長してからも変化しにくく、胎児期や幼少期の栄養状態がその後の体質に一生大きな影響を及ぼすことが明らかになっていいます。また成長してから生じたエピジェネティクスの変化は再び変化しやすいという事もわかっています。

 

6.エネルギー(クレアチンリン酸)を作る

GAMT(グアニジノ酢酸メチル基転移酵素)というメチル化酵素は、ATPとともに細胞のエネルギー源となるクレアチンリン酸の構成成分でもあるクレアチンを合成する酵素です。

クエアチン合成障害の症状として、発話遅延、精神運動発達の遅れ、てんかん発作、自閉症、低出生体重児、筋肉がつかない(華奢な体格)などがあります。

メチル化の仕事の70~80%はクレアチンの合成とホスファチジルコリンの合成です。つまりクレアチンは、他より優先して合成されるほど、健全な細胞の営みのために非常に重要な物質なのです。低メチル化の人はクレアチンとホスファチジルコリンのサプリメントを摂取する事で、メチル化の仕事の70~80%を減らす事ができ、その分外の事にメチル基を使う事ができるようになります。

クレアチンは筋肉に一番多く存在し、激しい運動をするアスリートなどは筋肉中のクレアチンが不足気味になるので、アスリートがクレアチンのサプリメントをよく愛用しています。しかしクレアチンはアスリートだけでなく低メチル化の人すべてにメリットがあるサプリメントです。

またクレアチンは脳機能改善にも大きな効果があり、脳内のクレアチン量が増える事によって精神的ストレスや睡眠不足に強くなったり認知機能が向上します。

メチル化に必要な栄養素およびメチル化を阻害するもの

メチル化に必要な事は、食事中のタンパク質から取り入れたメチオニンが、メチオニン→SAMe→SAH→ホモシステイン→メチオニンと代謝しながらサイクルしていく事です。このサイクルの事をメチル化サイクル(メチレーションサイクル)といいます。メチル化とは、このサイクルの途中にあるSAMeに含まれるメチル基を使った化学反応です。このサイクルが滞るとメチル化も停滞してしまいます。


このメチル化サイクルを順調に回転させるために必要な栄養素は以下の通りです。じゃ、これらのサプリメントを全部とればいいかというと違います。人によって必要なサプリメントは違ってきますので、私の場合はARテストでその人に必要なサプリメントを選んでいます。

  • メチオニン
  • 亜鉛
  • ビタミンB12またはメチルコバラミン
  • 食事性の葉酸またはメチルコバラミン
  • ベタイン(=トリメチルグリシン)
  • ビタミンB6

メチル化サイクルを阻害するものとして以下のようなものがあります。

  • 活性酸素→対策として心理療法、NAC、亜鉛、銅、マンガンなど
  • 炎症→対策としてクルクミン、腸粘膜の修復、オメガ3など
  • 鉛と水銀→対策として解毒が必要
  • アセトアルデヒド(飲酒やカンジダからの代謝物)→対策としてカンジダの除菌、飲酒の制限
  • メチオニンの取りすぎ(少なくても駄目だけど過剰な高タンパクも良くないという事です)

またメチオニンがSAMeに変化するためにはミトコンドリアが作り出すATPが必要なので、ミトコンドリアを活性化してATPを作り出すために以下のような栄養素が必要になります。ただし、ミトコンドリアを活性化させると活性酸素も増大するので先に活性酸素対策をしておく事が重要です。

  • ビタミンB郡
  • マグネシウム
  • コエンザイムQ10

メチル化に取り組む前に取り組むべき事は以下のような栄養療法の基本的な対策を先に完了しておくことです。これらの対策を先にしていないと、サプリが吸収されない、栄養素が細胞内に届かない、毒素や活性酸素などがメチル化サイクルを阻害するなどして効果がでません。

  • 水分と電解質の補給(細胞の健全な働きに必須です)
  • 酸化ストレス対策
  • 解毒
  • 細胞膜の修復
  • ミトコンドリアの活性化
  • リーキーガット、腸内細菌など腸内環境の改善
  • 消化を良くする(胃酸・消化酵素・胆汁などの分泌)

メチレーションをちょっとかじった程度の人がよくする間違いは、メチル化にいきなりアプローチする事です。例えば、MTHFRなどメチル化に関係の深い遺伝子に遺伝子多型があったら、すぐにメチル葉酸を摂取するなどです。そのようにすると失敗する可能性が高くなります。また栄養療法の基本的な事をするだけで遺伝子多型があったとしてもメチル化の問題がなくなる事もあります。

葉酸サプリは要注意

葉酸サプリは特に要注意のサプリメントです。飲み始めて体調が悪化したと感じる人はそれほどいないかもしれませんが、実は自分が悪化したと体感できないだけで、実際は悪化している人もいるでしょう。

では、どんな人が葉酸で悪化するのでしょう?

それは細胞の状態が良くない人です。もっと具体的に言うと、炎症、活性酸素、毒素、細胞膜のダメージ、水分や電解質の不足、エネルギー不足などがある人です。体調が悪い人はそのような状態ですので、いきなり葉酸を飲むのはやめたほうが良いと思います。まず他のサプリメントで細胞の状態を良くして体調の底上げをする必要があるでしょう。

では、どうして細胞の状態が良くない人が葉酸を摂取すると悪化するのでしょう?

葉酸は細胞分裂を促進させるのに最も重要な栄養素です。ですから、細胞の状態が良くない人が葉酸サプリを摂取すると、状態の悪い駄目な細胞が増えてしまうからです。

それが顕著な病気がリウマチです。ですから、リウマチに使われる薬は葉酸の代謝を阻害し細胞分裂を阻害します。そのようにして状態が悪い細胞が増加しないようにしているのです。

そして葉酸は細胞分裂だけでなくメチル化にも必須の栄養素です。メチル化は細胞の状態を良くするためにも必要な化学反応です。私達の身体は、葉酸を細胞分裂よりもメチル化のために優先的に使用しています。それは細胞分裂よりもメチル化が重要だからです。そして、メチル化にアプローチするという事は細胞分裂もある程度刺激する事になります。ですから、順序として栄養療法の基本的な事を行って細胞の状態を良くしてからメチル化に取り組む必要があります。

それから、葉酸を摂取するなら、食事からの葉酸(食事性葉酸)か活性化型の葉酸(メチル葉酸やフォリン酸)からにすべきです。非活性の合成葉酸(日本で一般的に推奨され販売されている葉酸サプリ)は、メチル化を抑制し細胞分裂は促しますので私は絶対におすすめしません。流行りでNow社のB50というサプリメントを飲んでいる人がいますが、やめたほうが良いでしょう。

ベン・リンチ、ウィアム・ウォルシュ、エイミー・ヤスコ

私がメチル化を勉強した時、この3人の書籍やセミナーから勉強しました。

特にベン・リンチの理論は最も参考になりました。ベン・リンチの日本語化された書籍はありませんが、たぶんベン・リンチ先生の提唱している理論が一番だと思います。

ウィアム・ウォルシュも大変参考になります。興味がありましたら「栄養素のチカラ」という書籍が翻訳されていますから読まれると良いかと思います。

それから、最後にエイミー・ヤスコについて。。。翻訳本があり、情報量もとても多くて勉強になる書籍です。日本でメチル化を勉強するとなると、おそらくエイミーヤスコの理論を勉強される方が多いと思います。しかし、エイミーヤスコの理論は、何でもかんでも「グルタミン酸」や「興奮毒性」に結びつける節があり、そこに私は強い違和感を感じています。